*「紛争の被害者を平和構築の担い手に」JCCPはアフリカ・中東の平和構築を支援する認定NPO法人です。 

ケニア
女性の視点からの治安改善への取り組み

<2012年12月掲載>

女性による治安調査

 皆さんはお住まいの地域で治安の悪い場所や夜ひとりで出歩くのが危険な場所を意識したことはありますか。そのような場所について知ることは、防犯や安全対策においてとても重要なことです。

 現在JCCPがコミュニティ平和構築事業を行っているケニアの首都ナイロビにあるマザレ・スラムでは、高い失業率や貧困のために、引ったくりや盗みといった犯罪が多発しています。麻薬・薬物・違法アルコール(密造酒)に手を染める人々も多く、さらに、女性や子どもに対する性的暴力や暴動なども多発しています。住民一人一人が、どのような犯罪がどのような場所で起きているのか知って自らを守ることで、犯罪の減少、治安改善につながります。

 2012年10月から11月にかけて、マザレ・スラムに住む12名の女性が、JCCPの助言を受けながら、女性の目から見たコミュニティの治安に関する調査を実施しました。まず、スラム内で露店を構える女性たちに対し、どのような場所が危険だと感じているかを尋ねるサンプル・インタビューを実施し、10日間で417名からのデータを収集しました。次に、長老や地域で活動するさまざまな団体の代表にインタビューを行いました。そして最後に、女性たち自らがマザレ・スラムの各地区を歩き、居住環境について調査を行いました。

 調査結果から分かったことは、スラム内では壊れた街灯が多いため、夜間に暗く死角となる場所で犯罪が起こりやすいということです。特に、街灯の付かない橋の付近は危険だといわれています。夜間ギャングが橋の下に隠れ、近づいてくる女性を待ち構えて襲うケースが多く、バッグや携帯電話などの強奪、レイプ、殺人などが報告されています。また、密造酒や麻薬の取引が頻繁に行われているにもかかわらず、管轄の警察がそれを黙認していることが多いことも報告されました。住民たちは警察が取引に関わっているのではないかと怖れ、取引を告発することができず、見て見ぬ振りしかできないということでした。
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 今後必要なのは、調査結果をもとに、治安回線のためにどのような対策が効果的かを検討し、実践していくことです。JCCPのコミュニティ平和構築事業のなかではすでに、防犯に関する啓発、研修、犯罪被害者へのカウンセリングなどを実施しています。彼女たちの女性視点での問題意識をこれらの既存の活動と結びつけ、マザレ・スラムの住民ひとりひとりが参加し協力し合うことができる環境をつくることが期待されています。


写真)マシモニ地区にあるオチョラ橋付近の様子

治安改善に向けた啓発イベント

 調査実施後、女性たちは、ジェンダー専門家やJCCP職員とともに、犯罪を防止し、治安を改善するための具体的なアイデアを出し合い、調査結果を広く近隣住民に共有するための啓発イベントを11月末に企画しました。各地域をパレードするとともに、スラムの集会場にコミュニティのリーダーや住民らを招き、調査報告書を発表するとともに、内容を歌や寸劇でわかりやすく、楽しく伝えるという内容です。

 今回は、イベントの1週間前に彼女たちが行った企画会議とリハーサルの様子をご紹介します。

 企画会議では、12名の女性たちが活発にアイデアを出し合い、パレードの道順、呼びかけの方法などについて相談しました。歌や寸劇は、マザレ・スラムのフルマ地区の10代の若者たちによって構成された「フルマ劇団」にお願いすることになりました。劇団員の多くは家庭問題や学校での問題を抱え、かつてJCCPの事業のもとでカウンセリングを受けていました。いまでは回復し、歌やダンスの能力を生かそうと、地域で独自にこのようなサークルを結成し、民族舞踊や演劇の経験をもつ大人たちの助言も受けながら活動しています。彼らの演劇はラブ・ストーリーやコメディはもちろん、社会問題も扱うので、最近では、マザレ・スラムの外からもさまざまな社会的なイベントに招かれています。

20121207_pickup記事4.jpgイベント1週間前に開催されたフルマ劇団のリハーサルでは、太鼓のリズムにあわせてマサイ族の民族衣装に身を包んで踊る伝統的なショー、ケニア国内のさまざまな民族の言語を織り交ぜたスキャット、女性への暴力を生々しく表現したダンスのあと、10分間ほどの劇が披露されました。妻に暴力を振るい、娘に対しては「学校になど行かなくていい、早く結婚しろ!」と怒鳴る父親に対し、息子が勇気を振り絞って、「女性を大切にしなくてはいけないって学校で習ったよ」と声を上げるという内容でした。

写真)女性差別撤廃を訴える歌とダンスのリハーサル


 印象的だったのは、その後の反省会です。全員が円になって座り、リハーサルのあいだじゅうメモを取りながら鑑賞していた女性たちが次々と立ち上がって、劇団員たちに対し、感想と意見を述べました。
「太鼓の音が大きすぎて声が聞こえないよ、もっと工夫して。」
「2曲目は抽象的すぎてメッセージが伝わってこなかったよ。」20121207_pickup記事3.jpg
「もっと台詞に感情を込めて!」
「典型的なマザレ・スラムの家庭では、男性はそんなにべらべらしゃべらないでしょ。あと、夫婦はふつう、突っ立ってはしゃべらないでしょ。妻はもっと男性に敬意をもって接するでしょ。大切なテーマなんだから、もっとリアリティを出して!」
みずから妻であり母親である女性たちからの厳しいコメントに、若い劇団員らはその都度、「はい!」と大きな声で答えていました。              

写真)活発に意見を出し合うイベント参加者たち


 イベント当日、大勢のゲストや住民の前で彼らが素晴らしいパフォーマンスを披露したことはいうまでもありません。スラム」ときくと、危険なところ、男性の犯罪者の溜まり場、絶望的な貧困の広がる恐ろしい場所、というイメージをもたれるかもしれませんが、途上国のスラムは、そこに生まれ、そこに暮らす子どもたちや女性たちの活気であふれていて、ほとんどの住民は、私たちと同様、幸せな家庭生活や円20121207_pickup記事2.jpg滑な人間関係を大切にし、安全な暮らしを望んでいます。平和を願うマザレ・スラムの若者や女性たちの独創的な活動が、地域の治安の改善に着実に結びついていることが感じられるイベントでした。



上写真)イト当日、民族舞踊を披露するフルマ劇団